国政選挙では比例代表制と選挙区制の2種類の選挙制度が導入されています。みなさんはこの2つの制度について説明ができますか?
社会科で習ったはずだけどよくわからない、という人も多いかもしれませんね。特に比例代表制については、仕組みが良くわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、比例代表制と選挙区制の違いや、衆議院と参議院での比例代表制の違いをわかりやすく解説していきます。
なお、選挙区制とはどういうものなのかについての詳細は以下の記事で解説しているので、より詳しく知りたいという場合はぜひ参考にしてみてください!
比例代表制とは
比例代表制とは、端的に言うと各政党に対して得票数に応じた比率で議席を分配する選挙制度です。
投票の際には、政党もしくは政党所属の候補者のどちらかに対して投票を行います。それぞれの票に書かれた政党名もしくは候補者の所属政党の合計を各政党で集計し、その比率を計算する流れです。
また、よく「比例区」という言葉を耳にしますが、これはマスコミや政党などが使用する通称で、比例区という名前の選挙区は存在しません。元々、参議院の選挙区を「全国区」と呼んでいた名残として使用されています。
ここからは、比例代表制の特徴について、以下の3つの視点から解説していきます。
- メリット
- デメリット
- 議席の計算方法
それでは順に見ていきましょう。
比例代表制のメリット
比例代表制のメリットには、大きく分けて以下の3点があります。
- 死票を減らせる
- 小さな政党でも議席が獲得しやすい
- 多様な意見が反映されやすい
まず、死票というのは落選した候補に投じた票など当選に直接関係しない票を指します。
比例代表制では、政党ごとの得票率から議席を分配するため、投じた票が選挙結果に全く影響しない、という事態が起こりにくいメリットがあります。一方で選挙区制では、投票先の候補者が当選しなければ、投じた票が選挙後に意見として政治に反映されにくいというデメリットになります。
これに関連して、小さな政党でも議席を得やすいというのが比例代表制の2つ目のメリットになります。
選挙区制では、各選挙区において得票数順に候補者が当選するため、組織票の強い大政党が有利な傾向にあります。しかし、比例代表制では得票数上位の候補者以外への票も計算の際に集計されるため、まさに塵も積もれば山となる、といった具合で小政党でも議席を取りやすいのです。
例えば、定数1の選挙区では2位以下の候補者が何票獲得しても選挙結果には影響しません。しかし、比例代表制では得票数が少なくても全部足して1議席分に足りていれば、議席が得られるというわけです。
特に参議院では比例投票の対象が全国なので、全国各地に散らばった支持者の票を合計して議席獲得に絡めることができます。最近では参政党など、新興政党が参院比例から議席を得るパターンも出ていますね。
同じように、多様な意見が反映されやすいというのも比例代表制のメリットです。少数派の票が比較的無視されにくいというのがポイントですね!
比例代表制のデメリット
一方で、比例代表制のデメリットには以下の2点が挙げられます。
- 立候補者の負担が大きい
- 政権が不安定になりやすい
まず、比例代表制には立候補者の負担が大きくなりやすいというデメリットがあります。その理由は、衆院選では複数県を跨ぎ、参院選では全国で戦うという規模の大きさです。
選挙区制に比べて広いエリアで選挙活動をするため、移動や複数事務所の運営など、金銭的にも時間的にも立候補者の負担が大きくなる傾向にあります。
続いて、政権が不安定になりやすいというのは、小党分立が起こりやすいことに起因します。
小さな政党でも議席がとりやすいというメリットは、裏を返せば政権与党が安定して議席を獲得しにくいという意味で、長期的に政権を安定させにくいことになります。政権交代がしやすいとも言い換えられますね。
比例代表制の計算方法
比例代表制では、議席配分の計算方法が少し複雑です。選挙区の場合は、それぞれの候補者の得票数を多い順に並べるだけでいいので大きな違いですね。
現在は、比例代表制の議席数の計算にはドント式という計算方法が使用されています。ドント式とは、各政党の得票数を1から順に自然数で割っていき、計算結果の大きい順に議席を割り振る計算方法です。
例えば、定数10の比例代表制で3つの政党がそれぞれ1,500票、1,200票、400票を獲得した場合、以下の表のように計算された結果、それぞれ5議席、4議席、1議席を獲得します。
衆議院と参議院共に、日本の比例代表制ではこのドント式が採用されています。
比例代表の当選結果の計算には全政党の総得票数が必要なので、選挙区よりも当選者の確定が遅くなる傾向にありますね。例えば2022年の参議院選挙では、開票日の翌朝9時頃に最後の当選者が確定しています。
比例代表制と選挙区の違いをわかりやすく解説
続いて、比例代表制と選挙区の違いについて解説していきます。主な違いは以下の4点です。
- 投票対象
- 死票の出やすさ
- 大政党と小政党のどちらに有利か
- 選挙にかかるコスト
それぞれ詳しく見ていきましょう。
投票対象は候補者か政党か
まず1つ目の大きな違いは、投票の対象です。
選挙区制では、その選挙区に立候補した候補者に対して、候補者の名前で投票します。一方で比例代表制では、政党名もしくは候補者名での投票となります。
比例代表制の場合、候補者名で投票しても政党の獲得議席数を計算する際には政党への票として数えられるので、実質的には政党に投票している形になります。
死票の出やすさの違い
2つ目の違いは、死票の出やすさです。前述の通り、死票とは選挙結果に直接影響しない票を指します。
選挙区制では、当選していない候補者が何票獲得していても、直接当選者を決定する際に影響しないため、死票が多くなる傾向があります。
例えば、定数1の選挙区であれば、1位が5万票獲得していれば、2位以下は得票数が4万9千票でも千票でも、選挙結果は変わりません。2位以下の得票数が多いほど、死票が多くなることになります。
その一方で比例代表制では、前述の通り、各政党の総得票数をもとに分配される議席を計算します。そのため、比較的死票が少なくなる選挙制度となっています。
死票が少ない理由は、同じ定数の選挙区制と比例代表制を比較するとわかりやすいです。例えば、定数1の選挙区が2つある場合と定数2の比例代表制の場合を比較してみましょう。
定数1の選挙区が2つで得票数が以下の場合。
結果として、どちらの選挙区もA党の候補者が当選し、B党の獲得議席は無し。
- 選挙区1:A党の候補者1,200票、B党の候補者1,100票
- 選挙区2:A党の候補者500票、B党の候補者400票
定数2の比例代表制で、得票数がA党が1,700票、B党が1,500票の場合。
結果として、A党とB党が1議席ずつ獲得。
この例では、選挙区制の場合も比例代表制の場合も、各党の総得票数は同じです。しかし、結果として、獲得議席数には違いが出ています。
このように比例代表制では、選挙区制では死票となっていた票も選挙結果に反映されやすいのです。
大政党と小政党のどちらに有利か
3つ目の違いは、大政党と小政党のどちらに有利かという点です。
まず、選挙区制では大政党が有利になります。というのも、選挙区制では得票数の少ない候補者の票は死票になりやすいからです。
各選挙区で組織票を持っている大政党の候補者が順当に勝ち進むと、小政党は議席を獲得しにくくなります。前項の死票の出やすさについての例を見るとわかりやすいですね。
一方で、比例代表制では小政党が議席を獲得しやすくなります。選挙区制では死票として結果に直接影響しなかった票も全て合算して議席数を計算するため、小政党でも1議席以上獲得できる可能性が高まるためです。
選挙にかかるコストの違い
4つ目の違いとして、立候補者が選挙に必要なコストの違いが挙げられます。
結論としては、比例代表制よりも選挙区制の方が選挙に必要なコストは抑えやすくなります。
その理由は、選挙区制に比べて比例代表制では対象となる地域が広いことです。
詳しくは後述しますが、衆議院では各県内に複数の選挙区があるのに対して比例ブロックは複数の県をまたいでおり、参議院では原則各県に1選挙区野に対して比例代表は全国からの投票です。
選挙を戦う地域が広くなると、移動に時間や費用がかかるほか、地域ごとに複数の事務所を設置しなければならないなど、金銭や時間といったコストが大きくなってしまいます。
比例代表制の衆議院選挙と参議院選挙での違い
同じ比例代表制とは言いますが、実は衆議院と参議院では仕組みが大きく異なります。
そこで続いては、衆議院選挙と参議院選挙のそれぞれの比例代表制の特徴と違いについて解説していきます。
衆議院選挙の比例代表制
衆議院選挙の比例代表制は、日本全国を11の比例ブロックに分けて行われます。例えば、広島は岡山や山口・鳥取や島根と合わせて中国ブロックに属しています。
また、衆議院選挙では拘束名簿式比例代表制という制度が導入されています。
拘束名簿式比例代表制では、私たち有権者は政党名で投票を行います。そして、各政党は得票数に応じて議席が分配されます。
各政党は事前に候補者名簿を作成しており、獲得議席の数だけ名簿の上から順に当選する候補者が決定されます。そのため、政党が当選する候補者をある程度操作できるというのが特徴です。
この当選順位が名簿によって拘束されていることが、拘束名簿式比例代表制の由来ですね。
加えて、衆議院選挙では、選挙区に立候補している候補者を比例代表の名簿にも記載する重複立候補ができます。これにより、選挙区で落選しても比例で当選する復活当選が可能です。
なお、復活当選には有効投票数の10%、いわゆる供託金没収ラインを上回る得票が条件となっています。この復活当選については、選挙区で選ばれなかったという民意を無視しており、民主主義に反するのではないかという議論も行われています。
加えて、衆議院選挙では選挙ごとに小選挙区と比例代表の候補者を入れ替えるコスタリカ方式という手法が取り入れられることもあります。コスタリカ方式には以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
コスタリカ方式とは?広島での採用やメリットデメリットと由来も解説
参議院選挙の比例代表制
参議院選挙の比例代表制は、全国で1つのブロックとしてすべての候補者の中から選んで投票ができます。この特徴から以前は全国区という名称が使われていました。
また、衆議院選挙では拘束名簿式比例代表制が導入されているのに対して、参議院選挙では非拘束名簿式比例代表制が導入されています。
非拘束名簿式比例代表制では、私たち有権者は政党名もしくは候補者名での投票が可能です。
各政党への議席数を配分する計算の際には、候補者名での票も所属する政党の票として計算されます。そして、配分された議席に対して、各政党の候補者の中で得票数が多い順に当選と言う流れです。
そのため、名簿の記載順は原則として当選には関係がなく、五十音順に記載されます。当選するかどうかが名簿の順番に拘束されないというのが、非拘束名簿式比例代表制の由来ですね。
この仕組みにより、自分の選んだ候補者の当選に直接影響を及ぼすことができる制度であると言えます。
なお、参議院選挙では選挙区と比例代表での重複立候補ができないため、復活当選も不可能です。
ただし、一部の候補者については各政党内で優先的に当選させることができる特定枠という仕組みがあります。
この特定枠は、島根・鳥取と高知・徳島が合区として2県で1つの選挙区となったことから、これらの県選出の参議院議員がいなくなり国会に意見が届かなくなることを懸念して制定された制度です。
各政党は、任意でこれらの県出身者を優先的に比例当選させられる特定枠を2枠保有しています。2019年にはれいわ新選組がこの特定枠を使って身体に障害のある候補者を2名当選させたことで話題になりましたね。
特定枠の存在から、参議院選挙では原則として非拘束名簿式比例代表制ですが、一部に拘束名簿式比例代表制が導入されていることになります。
衆議院と参議院の違いをまとめ
ここまで説明してきた衆議院選挙と参議院選挙での比例代表制の違いをまとめたのが以下の表です。
衆議院 | 参議院 | |
---|---|---|
選挙地域 | 全国11ブロック | 全国で1ブロック |
形式 | 拘束名簿式 | 非拘束名簿式 (一部拘束名簿式) |
投票対象 | 政党 | 政党もしくは候補者 |
重複立候補 | 可能 | 不可能 |
特定枠 | なし | 各政党2枠 |
それぞれの特徴を押さえておきましょう!
比例代表への投票の注意点
最後に、比例代表に投票する際の注意点を3点解説します。
特に3つ目については、勘違いしている人が多く、2022年の参議院選挙時などには間違った情報がTwitterなどのSNSで拡散されていたので、ご注意ください!
- 比例代表の投票用紙は2枚目
- 誤字脱字を無くし、キレイな文字で
- 候補者名での投票は「政党に1票+候補者に1票=2票分の価値」ではない
それではそれぞれ詳しく見ていきましょう。
比例代表の投票用紙は2枚目
国政選挙では、同じ日に選挙区と比例代表の投票を両方行います。
その際、1枚目の投票用紙が選挙区の投票、2枚目の投票用紙が比例代表の投票です。投票所でも教えてもらえますが、間違えないようにしましょう。
投票所には、候補者や政党名など投票対象の名簿が貼ってあるので、掲示の中から投票先を選ぶように心がけるといいでしょう。
誤字脱字を無くし、キレイな文字で記入する
誤字や脱字があったり、文字が汚くて読めない場合には無効票や按分票として扱われる可能性があります。そのため、これらがないように丁寧に記入しましょう。
多少の間違いは見逃してもらえることもありますが、自分の票をキチンと選挙に反映させるためには間違わないのがベストです。掲示されている政党名・候補者名を見ながら記入するのがおすすめですね。
同姓や同名の候補者がいる場合など、誰への票なのかがわかりにくい場合は、該当しそうな候補者間で0.5票ずつ等といった具合に票が分けられる恐れがあるので注意です。
比例代表への記名投票は2票分の価値ではない
参議院の比例投票では、候補者名での投票が可能です。候補者名で投票した場合、政党への票として議席配分の計算に使われたのち、当選順確定のために候補者の票として集計されます。
ここで勘違いされがちなのが、候補者名で投票すれば政党と候補者に1票ずつの計2票が投票で来てお得なのではないかという点です。
しかし、これは間違いです。政党名で投票しても候補者名で投票しても1票分の投票なので、どちらがお得、ということはありません。
投票したい特定の候補者がいないけれど、政党に投票したら1票分損する、等ということは無いので安心してください。
2022年の参議院選挙の際には、2票分の価値があってお得だから候補者名で投票しよう、という主旨の投稿がTwitterなどで拡散されていましたが、誤った情報なので誤解しないようにしましょう。
比例代表制と選挙区の違いは、選ぶ対象が人か政党か
ここまで、比例代表は選挙区とどう違うのかについて、衆議院と参議院に分けて解説してきました。
比例代表制は選挙区制に比べると少し複雑なので、誤解する人も多いようですね。正しい情報を持って、あなたの1票をぜひ有効に使う手助けになれば幸いです!
もしも他にも何か知りたいことがあればぜひコメントをSNSやコンタクトフォームからお寄せください!
よくある質問
選挙区と比例代表制の違いは?
端的に言うと、立候補している人に投票するか、政党に投票するかの違いです。
選挙区制では得票数の多い順に当選しますが、比例代表制では各政党の得票数に応じて議席を分配したのち、政党内で議席数分の候補者が当選する流れとなっています。
衆議院と参議院の比例代表制の違いは?
衆議院では拘束名簿式比例代表制が、参議院では非拘束名簿式比例代表制が導入されています。
衆議院では全国を11ブロックに分け、政党名で投票します。各政党が候補者の当選する優先順位を決めたうえで分配された議席数だけ、名簿の上から順に当選する方式です。選挙区との重複立候補が可能なので、選挙区で落選しても比例代表での復活投票が狙えます。
参議院では、全国を1ブロックとして、政党名もしくは候補者名で投票します。得票数に応じて各政党に議席を分配したうえで、各政党で得票数が多かった順に候補者が当選します。各政党2名まで、優先的に当選させられる特定枠が使用可能です。その一方で、選挙区との重複立候補はできないので復活当選はできません。
比例代表に候補者名で投票すると2票分の価値?
参議院選挙でも、政党名で投票しても候補者名で投票しても同じ1票です。
あくまで、特定の政党に投票したうえで獲得した議席に対してどの候補者を当選させるか、という計算に候補者名の票が使われるだけなので、1票の価値は変わりません。